70th Special Thanks

スペシャルコンテンツ
「もてなす」を紡ぐ
70周年記念コラボレーションアート

最手成す

最も尊い人を想い、最も良い材料を使い最も美しいものを目指す

手仕事の技の粋を集め、手間を惜しまず成す布の歴史

Justin Chou・洪宇辰 Kimono Artist / Fashion Designer

Behind Story
「最手成す」

最手成す – もてなす

最も尊い人を想い、最も良い材料を使い、最も美しいものを目指し、手仕事の技の粋を集め、手間を惜しまず成す布の歴史。

最手 – ほて –

横綱の古来の呼び方。

古来、絹織物は尊きもの

絹糸をつくる蚕は「天の虫」と書くように、蚕の語源は「神の子」とされている。

玉小石と結城紬

玉小石は日本最古の原種、皇室にも縁の深い蚕「小石丸」の突然変異種。

小石丸より強い糸ができる蚕である「玉小石」が誕生したのは、平成になってから。

平成期はすでに養蚕衰退の時代背景もあり、ほとんど日の目を浴びることはほぼ無かった。

結城紬は奈良時代(西暦700年代)から歴史がある、最も原始的な絹織物でユネスコ文化遺産にもなった絹織物。

高貴な草木染 ~漢方を着る~

化学染料が無かった時代、草木染めの染料として現代の漢方薬に通じる材料が用いられ、明るい色調を出すには大量の材料ととてつもない手間と人員がかかり、儀礼用の衣装用の染織は国家事業レベルのものであった。

庶民の草木染とは一線を画した、言うなれば「高貴な草木染」と言える。

現代の「薬を服用する」という表現に「服」という文字が入っているのも、この漢方薬由来の染料に使われていたことから来ているとの説もある。

染めた織物の色の変化は「茶道のわびさび」に通じる深みがでる。「経年劣化」では無く「経年美化」と言える。

ドレスコード

服とは「敬意」の象徴でもある。相手に礼を尽くす「相手に対しての敬意」と表すことにより、お互いを高めることにもつながる。

自然な形での「敬意の交換」により心地よい空間が生まれる。日本のドレスコードは「和をもって貴しとする」とする精神が息づいている。

禁色

古来、日本では皇室にしか許されていなかった草木染で「禁色」というものがある。代表的なものに天皇陛下の礼装に使われる黄櫨染がある。

数種の禁色に全てに共通しているのは、太陽に当たると色が赤く変化し、日輪をまとうかの如き着姿となる。

「お日様」という言葉を表すように日本人にとって太陽は大切な存在。そして、皇室の方々が禁色を大切な場で着用することの意味は「五穀豊穣」を願う精神の表れ。

最手成すものづくり

今回の代表作品として、最も歴史ある織物である結城紬を広幅で織り上げるという今までに類の無い挑戦に、その布に日本古来の最高峰の「高貴な草木染」で染めあげれば歴史上最高の布が出来るのではないかという挑戦。

自然を畏れ敬う日本文化において、禁色は自然に対する敬意を表す衣装とも言えるのではないかと考えた。

ただ、「禁色」という言葉のように、皇室の儀礼に使われる完璧な禁色の製法は皇室以外に門外不出。我々は特に黄櫨染に対しての憧れ、草木染を代表されるものづくりに敬意を表し、過去の文献や口伝を元に黄櫨染を目指した染を行った。

日本の絹織物、草木染は100年以上保たせる、「三代保つ」ということがものづくりの根幹にある。

代々伝えていくという歴史の積み重ねがあるものづくりを世界に発信したいという思いで、台湾ナンバーワンのデザイナー Justin氏に生地を委ね、日本の着物文化に人生をかけた台湾人洪宇辰のコラボレーションでデザインを依頼した。

Artist Interview

今回このプロジェクトに参加された理由や思いについて

洪:私からとしては、やっぱり丸安さんが広幅の技術を再起させてくれるイメージというか、ビジョンが見えたので、この4年間ずっとお付き合いさせてもらってきたんですね。今回も松井さんからのお誘いもあって、その中で「これが世の中に広幅をお披露目できる一番のチャンスだな」と思って参加させていただきました。

Justin(洪 訳):僕にとっては仕事というよりは一つの「挑戦」だと思っています。今まで触ったことのない染めや生地なので、台湾のデザイナーと日本の職人さんとの間でどんな化学反応が起きるのか、すごく期待していました。

高松(株式会社細尾 古代染色研究所):私はちょうど1年くらい前にお話をさせていただいて、わざわざお越しいただいたんです。70周年の記念すべきタイミングで、これまでお世話になった方々にもお披露目したいというお話を聞きました。当初はどう関わるのか分からなかったのですが、すごく熱い思いを感じられたので、単に「この色に合わせてください」ということではなく、その色の向こう側にあるストーリーを大事にされているんだろうなと感じました。私たちも何かご一緒できたらありがたいことだなと思ってやらせていただきました。

制作過程において印象深かったエピソード

Justin(洪 訳):生地をもらった瞬間が一番印象的でした。生地を渡される前に洪さんから色々と説明を受けていたので、自分なりに「どんな生地なのかな」と想像を膨らませていたんです。でも、実際に触った生地はイメージと全然違っていて、例えるなら『中華一番!』でフタを開けたら光がバーンと飛び出すような、それくらいのインパクトがありました。過去にも草木染めとコラボした経験があって生地に対する自分なりのイメージを持っていたのですが、今回の生地は今まで触ってきたものと風合いも印象もまったく違っていて、これまでの常識が覆されたのが一番印象深かったです。

洪:織り方や使っている糸も違いますし、同じ絹でもまったく別物でしたね。

高松:そもそも今回使わせてもらった「櫨(ハゼ)」と「蘇芳(スオウ)」という染料自体が、普段は使わないような特別なものなので、染料自体がかなりレアなケースです。台湾でも藍染めや柿渋染めなど馴染みのあるものがあると伺いましたが、強アルカリの中に置かれる藍染めや、タンニンで鞣(なめ)されるような柿渋染めと比べると、今回の染料が生地に与える風合いはまったく異なります。今まで触ってこられたものとは全然違う生地になったのだと思います。

インタビュアー:実際に私も現場に見に行きましたが、衝撃でしたね。「そうやって染めてるんだ」と。染め終わったかなと思ったら「まだダメか」と職人さんのこだわりが続いていて。

洪:私も両方の現場に行っているのですが、高松君自身が「もういいかな」と思ったところでも、職人さんが「これじゃダメだ」と妥協しないこだわりがありました。執着というわけではなく、「もっと良いものに仕上げたい」という職人気質がとても印象に残っています。Justin側としても、「着物の生地として使われていたものが、こんなにも幅広い活用方法があるんだ」と知ることができて、かなり印象深かったようです。

インタビュアー:高松さんも、現場にいる時は目つきが全然違いますよね。すごく鋭い職人の目になっていました。

作品テーマ「もてなす」を日々の活動でどう意識しているか

高松:今回の面白かったエピソードにも通じるのですが、最初の「櫨紅葉(ハゼモミジ)」というお題に行き着くまでに、櫨と蘇芳を使ってどんなオリジナルな色にしていくかを模索しました。洪さんに「こういう色合いはどうですか」と聞きながら進めたのですが、洪さんの求める色と、自分が従来考えていた「櫨と蘇芳のふさわしい色」にギャップがあって、それがとても面白かったんです。今回の色は洪さんがいなかったら絶対に出なかった色ですし、「相手が心の中で求めているものにどう応えるか」を常に考えて向き合っていました。

Justin(洪 訳):僕は仕事を仕事と思わずに「遊び」だと思っていることが多いです。もちろん引き受けた仕事には真摯に向き合いますが、その中で「色で遊ぶか」「生地と対話して遊ぶか」を楽しんでいるんですね。周りから「そんなに仕事を抱えて疲れないの?」と聞かれても、「ゲームで遊んでいる時に疲れないのと同じだよ」と答えています。趣味のように楽しんでいるからこそベストを尽くせるし、それが自分なりの「もてなし」なのだと思っています。

高松:気持ちによって染まる色も全然変わりますね。「このさじ加減でピタッと色を合わせる」というよりは、どうなるか分からない自然の要素も含みながら向き合っています。「こうなるかな」と思ったことに対して素材からの応答があり、それに対してまたどう対応するか。ある意味で僕も素材と対話して「遊んでいる」のかもしれません。終わりがない中で、相手が一番求めている着地点へどう持っていくか、自然との対話の中で生まれるものだと思っています。

洪:僕は自分の考えを押し通すより、まずみんなの意見を取り入れてから考え直すことが多いです。全部丸投げするのも良くないですが、相手の気持ちを汲み取りながらモノづくりをした方が一番いいものができますし、関わるみんながハッピーになれるのが一番良いなと思っています。

Justin, Yu-Ying Chou(周裕穎) Fashion Designer

周裕穎(ジョウ・ユィイン)は、ニューヨークファッションウィークに公式参加した初の台湾人デザイナー。これまでに6度ニューヨークファッションウィークでコレクションを発表。

2017年:ElleのFashion Now! イニシアチブで「Top 3 Best Designers」に選出
2020年:Vogue Italiaの「Best of Talents」、「ニューヨークファッションウィークの中で最も才能あるデザイナー」の一人として選ばれる
2021年:東京オリンピック、2024年:パリオリンピックの台湾代表チームのパレード・ユニフォームのデザインも手がける

国内外の大型ファッションデザイン賞でも数多くの受賞歴を持ち、これまでに台北ファッションウィーク副召集人、台湾金点新秀設計賞召集人、輔仁大学織品服装学院織品服装学系副教授級専門技術職、GASE × 天下雑誌 U20 国際青年フォーラムにおける「脱プラ・減廃トレーニングワークショップ」講師、NIKE サステナビリティワークショップ講師なども務めた。

2014年:自身のブランド Just In Case を設立
2018年:JUST IN XX に改名
2019年:サステナブルファッションの支線ブランド Luxxury Godbage by JUST IN XX を設立

ハイファッションと台湾のアート、文化、持続可能性、職人技を融合させることで知られる彼の作品は台湾大統領府で展示され、LEVI’S、NIKE、UNIQLOといったグローバルブランドとのコラボレーションでも紹介されており、国立故宮博物院とのダブルブランド企画「SuperlinXX 超脱」、国立歴史博物館による「史博ロマン大飯店」紋様ライセンス展示などがある。

洪宇辰(田之倉宇辰師範) Ushin Kou

1996年台湾・基隆市に葬儀業を営む家庭の長男として生まれる。祖父母は栃木県宇都宮市で飲食店を経営しており、その影響から幼少期より自然と日本文化に親しむ環境で育つ。

大家族かつ葬儀業という特異な家庭環境の中で織物や漆をはじめとする日本の伝統工芸に触れる機会が多く、幼少の頃から日本文化への興味を深める。その影響で着物への憧憬を深め、美容専門学校卒業後ナイスニッポン株式会社に入社。

2016年:山野流着装奥伝講師取得
2022年:台湾着物王子商標登録

同2022年民族衣裳文化普及協会にて男性初の指導師範免状を取得し、留袖・振袖から花嫁衣裳、十二単、武者鎧まで幅広い着付けに対応できる技術を確立。師範名は「田之倉宇辰」となる。

年間360日以上を着物で過ごし、養蚕や染織の作業以外は常に着物姿で生活。京都・博多・沖縄・鹿児島・結城・八丈島・新潟・静岡・金沢・福井など全国の染織産地を巡り、福島では日本原種の蚕「玉小石」の養蚕を通じたものづくりをするなど、伝統工芸に新たな感性を取り入れ、「芸術的な布」としての着物を世界に発信するための取り組みを行っている。

その活動は高く評価され、雑誌『美しいキモノ』にも掲載。主宰するブランド「王薫」では、異国の伝統と日本の美を融合させた新しい着物スタイルを提案。「着物は過去の遺産ではなく、日常で息づく文化」という信念のもと、王薫会や国内外のイベント、武者鎧の着付け、海外向けの着物ショー、舞台衣装製作など多角的な活動で国境を越えてその魅力を発信し続けている。